「もしもあなたが、地球を救うために宇宙に行くとして、自分の宝物を5つだけ持って行けるとしたら?」
講師はワークショップの回答用紙を配りながら続けた。
「物でも人でも、なんでもいいです。実際には持って行けそうにないものでも構いません。」
後ろ向きな回答
昼食用に購入した駅弁を手に、八重洲南口からバスに乗って着いた所は小さな会議室。受講者は20名程度だった。
「いつ帰れるかどうかわからない大旅行です。あなたは何を持って行きますか?」
宇宙旅行って…銀河鉄道999か。そんなリアリティーの無いファンタジーな設定ではイメージが湧かない…
と思いきや、私はにわかに泣けてきた。
いや全然泣くところではないのだ。
そんなヤバい奴は私しかいない。下を向いて何とかごまかそうとしたが、すぐ後ろに座っていた係の人が気づいて、
「大丈夫ですか?お水飲みますか?」
と心配してくださったので、講師にも見つかってしまった。
「大丈夫です。すみません。」
と苦笑し、回答用紙に向かった。
講師「はい、ではAさん、何を持って行きますか?」
受講生A「スマホ!お金!キムタクのポスター!それと…」
講師「キムタク?…もうちょっと無いですか」(笑)
そんな軽いノリでいいのか……何も思いつかなかったら「ビールと柿の種♪」くらいにはぐらかせばいいのに、
真面目か!? と自分の書いた重たすぎる回答を見ていると、講師が私のところまでやって来て、どれどれと覗き込んだ。

・家
・家族
・ふるさとの思い出
5つと言われたが、3つで十分だった。
講師は私の書いた答えをじっと見ていた。
宇宙での任務に役立ちそうな物など一つもなく、地球と過去にとらわれている感傷的で後ろ向きな答えである。
しかも「行きたくない」と泣きべそまでかいているのだ。
ビビッておもらしするからおむつも持って行った方がイイぞ、と思われたかもしれない。こんなへなちょこに重要な仕事が務まるはずがない。きっと宇宙船には乗せてもらえないだろう。
11日だった。
講師は何も言わず踵を返した。
「はい、ではBさん」
セミナーは続く。
*
東京では報じられないニュースがある。
『9月11日。今日は震災から6年半の月命日です。沿岸では行方不明者の一斉捜索が行われています』
新幹線の中で見た地方ニュースが頭に残っていたのだろう。2011年3月11日に起きた東日本大震災。以来、毎月11日に行われる『捜索』は、今もなお続いている。
警察官はTVのインタビューに「最後の一人が見つかるまで我々は…」と言っていたが、もう捜索活動というより形式的な恒例行事になってしまったのかもしれない。
(もしもあなたが、地球を救うために宇宙に行くとして、自分の宝物を5つだけ持って行けるとしたら?)
あの日、地球の終わりのように見えた景色。
家も家族も失い、がれきの中から掘り起こされた物の一つに、アルバムがあった。泥で汚れた結婚記念写真が丁重に並べられ、避難所であるじを待っている映像がTVに映った。
半年分の結婚式の予約が全てキャンセルになり、悔しくて何もできない無力さを痛感していた私だが、その映像を見て救われた思いになったのを憶えている。結婚記念写真なんて、普段は押し入れの隅で埃をかぶっているけれど、有事には生きる糧にもなるのだと。
(いつ帰れるかどうかわからない大旅行です。あなたは何を持って行きますか?)
持って行きたい物も何一つ持たずに避難し、14年経った今もいつ帰れるかどうかわからない大旅行の真っ只中にいる福島の人たち。ふるさとの名前は『帰還困難区域』となった。
帰れなくても、心の中にふるさとの思い出があるからこそ、今日を生き、未来を語ることができるのではないか。
私の回答は案外、後ろ向きでもない気がしてきた。
リソース
ふるさとの思い出など、宇宙では何の役にも立たないかといったら、そうとも言い切れないと思う。
それは、なぜ行くのかという目的と動機であり、成し遂げるためにはむしろ必要不可欠な『志』なのではないか。有志よ、愛する地球を救うのだ!
これ以上のベストアンサーはない!
ファイナルアンサーーー!!!! (←謎の自信)
*
このワークショップは、自分の大切にしたい軸、考え方の基本となるものは何なのか、それをどう仕事に生かしていくのかという『リソース』を学ぶものであった。
私の持っている資源、強みは何か。
一番大切にしたいことは何なのか。
なぜ、この仕事をするのか。
立ち止まり、振り返る。
結婚するふたりにとっても、結婚式はリソースを確認するいい機会である。そう講師は言った。
誰を招待するか、どうしてその方をお招きしたいのか、何を伝えたいのか、どうやって伝えるのか。なぜ結婚式をするのか、或いは、しないのか。
プランナーが提示すべきは素敵なイメージ動画でも、特典を付けた見積書でもない。情報ならスマホに溢れているが、宝物とは言い難い。
アルバムをめくるように これまでの人生を振り返り
あなたを支えてくださった方々 出会えてよかったと思った方々の顔を思い浮かべてみてください。
一番大切にしたいこと。自分の宝物。
これから始まる大旅行に、あなたは何を持って行きますか?
(3.11に寄せて)
2011年の東日本大震災から14年が経ちました。
家や家族を失った方々、今も尚ふるさとに帰れない方々、家族が見つからない方々の心の中にある宝物が、生きる力になりますように。
すがわら


